<ビッグコミックスピリッツ 1994年8号〜12号>
<ビッグコミックスピリッツ21 1994年月5号〜1995年10月号>
● あらすじ ● 古田清貴、15歳。県立の商業高校を受験し、見事合格!…する筈だった。早い話、落ちた。 そして仕方なく、高校受験のための予備校、「東大道予備校」に入学する。 ここは駅前の有名予備校にも入れなかった者が最終的に流れ着くいわくつきの学校だ。 普通の高校に落ちた馬鹿者=人生の落伍者というレッテルを15歳にして貼られた。 中学時代の同級生が高校生として新しい制服で登校するのに、そのままの制服で2度目の高校受験に向けて 勉強することを余儀なくされる、情けなさと劣等感。清貴は悔し涙を流す。 学校が家から遠いため、清貴はここの付属寮に入り、生活することとなった。一癖も二癖もある仲間との友情。 反乱、挫折、希望、絶望、将来の夢、小さな恋。 作者自身が実際に体験した「中学浪人」を、痛みを伴う爽やかな青春者として描いている。 |
● 感想 ● 盛田先生ご自身が体験したこととあって、描写が非常にリアルで、説得力があります。 「冬物語」、「はっぴい直前」等、浪人ものを扱った作品は結構多くありますがどれも高校→大学ばかりで 中学→高校に進学する際の浪人をテーマにした作品は、後にも先にもこの「チューロウ」が初めてなんじゃ ないでしょうか。 そもそも義務教育なんてものは中学で終わりで、それから先の高校は本人の意思、将来なりたい職業とを 照らし合わせて行くか行かないか自由に選択できるんですけど、義務教育化してますね。まあこれも時代なんで しょうけど。「今時高校を出てないなんて落ちこぼれ」っていう偏見がありますからね。いいのよ大卒だろうが 中卒だろうが、きちんと自分なりに目標を持って手に職をもっていれば。 おっと、ちょっと横道に外れましたね。でも盛田先生の各作品を読んでいると、この中浪体験を後々まで引きずる コンプレックスになってるのがよくわかります。「アイラブユー」ではヒロインがダブリで高校進学し、 「しっぷうどとう」では主人公が第一志望の高校に落ちて「第三志望のバカ学校」にイヤイヤ行くことに…など。 でも確かに屈辱だろうな。1回で済むはずだった高校受験をもう1回やって、受かったら受かったでもともと 同い年だった同級生を「先輩」なんて呼ばなきゃならない。同級生同士ならまだしも、隣近所からの視線とか、 噂とか。現実問題として考えるとすっごい濃い体験をしたんだなあ。でもその体験が心理描写を非常に説得力のあるものとして描けているのである意味「怪我の功名」…なんて軽く言ったら盛田先生に失礼なんですけど。 インタビューで盛田先生ご自身がその予備校の寮生活についてお話ししてたんですが…すごいですね。 娯楽一切禁止で、硝子が割れても新しく入れてもらえなくて、問題アリの教師に殴られて、トイレは鍵が かからなくて…作品中でもその辺の描写がありますが寮監の田村先生は厳しいけど根はいい人だな… ちなみに伊原には「チューロウ」のイメージソングがありまして、 小沢健二の「僕らが旅に出る理由」がこの作品にとても合うな、と思うのです。 |
● 登場人物 ● ・古田清貴 :主人公。鶴田中学校から県立豊国商業高校に進学するはずだったが、失敗し、やむなく 中学浪人として東大道予備校へ。家から遠いため寮生活をすることになる。 背が小さく喧嘩も弱いが、負けん気だけは人一倍強い。 ・高野やすし :古田と同じ寮生で金髪のリーゼント君。ギターをかき鳴らしては顰蹙を買っていた。 古田と共にボイコットを起こしたり憧れの女性、唯先輩に会いに夜中抜け出したり等問題児。 その後私立高校受験の時に出会った少女とバンドを組み、バイトを転々としながら好きな 道を歩む。 ・安西隆 :同じく、古田と同じ寮生。中学時代はラグビー部で活躍していた。 私立には合格していたが、ラグビーの名門校に進みたくて中学浪人を決意した。 古田とはちょっとした誤解が元で大喧嘩となったが、それがきっかけとなり友達になった。 ・グリ :寮生で古田達の友達。イガグリのような坊主頭でたまに「鉄腕」のハチマキを巻いている。 ・トマちゃん :スピリッツの表紙でおなじみのパイナップル人間のような頭をしている寮生。 グリと同じ高校へ行った。 ・武内 :頭は悪くないが元不良で勉強をしなかったため中学浪人になる。 中学時代からの彼女と同じ高校に進むべく勉強を頑張っていたが、母親が倒れたため急遽就職。 その後大検を受け大学に進む。 ・堀川亜希 :ひょんなことから古田と付き合い始めた、県内屈指の名門校・栄光女子学院の1年生。 |
● 印象に残ったシーン ● <1巻 「狼になりたい」 > 立てこもりから投降したあと、教頭に1人ずつ平手打ちを喰らうシーン。 「牙が欲しい。 知恵という名の牙が。 大人達に噛みついても折れない、強くて太い牙が欲しい…」 <2巻 「僕が僕であるために」 > 風邪をひいて熱がある古田が安西の付き合いで遊びに出たその夜。熱でふらふら状態の時に 安西流の「賭け」により、歩道橋から落ちそうになるところ。人よりも1年多く費やした高校受験に 向けての決意を固めた回。熱で紅潮した古田が妙に色っぽい。 <2巻 「唇をかみしめて」 > 滑り止め私立の漢南大付属高校受験の際、昼休みに古田が安西と語った「これから」のこと。 テレビ見て、だらーっとして、「好きなこと見つけるよ」 …シンプルな言葉と未来を見つめた瞳が印象深い。 |